~~
世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が、長きにわたった新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言を終了すると発表した。
ワクチンの普及などにより新規感染者数や死者数が減少したためだ。あらゆる国・地域に甚大な影響を及ぼした新型コロナのパンデミック(世界的大流行)の終息に向けた重要な節目といえるだろう。
だからといって見過ごせないことがある。2019年12月に中国の武漢市で感染が確認された後にWHOが取った対応のまずさである。テドロス氏はかねて中国の影響下にあると批判されてきた。それが中国発の感染症に対するWHOの対応を不十分なものとしたのではないか。この点の検証を行わず、うやむやに幕引きを図ることは許されない。
WHOは20年1月22、23両日に緊急委員会を開いたが、宣言を見送った。事態は悪化の一途をたどっていたのに、テドロス氏は同月28日、北京で「中国政府が迅速で効果的な措置を取ったことに敬服する」と絶賛した。ようやく宣言が出たのは同月30日だ。テドロス氏は宣言について、中国側から慎重な判断を求められていた。
ウイルスの起源解明を巡り、WHOの国際調査団が武漢入りしたのは発生から約1年後の21年1月だった。中国側が同意した場所に限られた調査は中国の主張にお墨付きを与えただけと指摘された。
こうした対応が中国による事実関係の隠蔽(いんぺい)を助長したのではないか。そうであるならWHOの一連の対中姿勢が世界に惨禍をもたらしたといっても過言ではない。
致命的なミスは他にもある。日米など多くの国がWHO年次総会への台湾のオブザーバー参加を求めていたにもかかわらず、これを認めなかったことだ。ここでも中国への配慮があったのだろう。感染症対応で台湾という空白域を作ったのは国際社会への背信行為である。しかも初期の感染封じ込めに成功した台湾の知見も生かせなかった。これでは国際機関の役割を果たせたとはいえまい。
テドロス氏の責任も含めてWHOの判断の妥当性が問われるべきは当然だ。そのために第三者による検証作業を行ってはどうか。今月13、14両日には長崎市で先進7カ国(G7)保健相会合が開かれる。日本はWHOの検証と改革の必要性を訴えるべきである。
◇
2023年5月9日付産経新聞【主張】を転載しています